<血塗られた過去、月夜の庭>

 

「良かった・・・」

執務室へ届けられた手紙を握りしめ、シンディはほっと息を吐いた。学術研究という名目で、彼女が

ヴァレンの王にシフ達の入国許可を求めた手紙を送ってから数日、幸いにも快い返事が来たのである。

王の直筆のサインが入った三枚の入国許可証に、シンディへの労わりの私信が添えてあった。

 

大陸最南の土地を領土とするヴァレン。国王・レナードは年齢も三十と若く、まだ国家間が交流をしていた

時期には、幼いシンディとも親交があった。当時の王同士が会談などを行う際、次代の国王という立場にある

レナードとシンディも同行していて、顔を合わせたりしていたのである。

この大陸で好戦的な国の代表といえばラウォであり、他にフォングやマイヤも、いざ戦争となれば積極的に

行動する考え方を持っている。しかしレナード王はシンディと似たタイプの人間であり、どちらかというと

戦争を起こさぬよう、問題の平和的解決を強く望む清廉な人物である。

だからこそ、大陸戦争後はやむなくエントルスとヴァレンも政治的国交を断つ形となったが、今でも王である

二人は個人的に季節の便りなどをやりとりする間柄であった。

「さて、次はメカレの元へ手紙を届けねばな。こちらも数日で返事をもらえるだろう・・・」

細いペンを持ち、慣れた手付きでサラサラと文字を綴ってゆくシンディをソファに転がったまま眺めていた

人物が、盛大に溜め息をついた。

「どうした、シフ」

シンディは手を止めて、ちらりと目線をよこす。

「何で俺だけ、ずっと留守番なんだよッ!」

金色の瞳が吊り上がり、語尾も荒々しいシフ。

ヴァレンへの入国許可、そしてメカレの家の訪問許可の二つを揃えるまでの期間。グラディウスとカッツは

毎日のようにエントルスの市場や鍛冶屋を回り、今後の旅の持ち物の補充や武器の手入れ、情報収集などを

行っている。しかし、シフはシンディから外出を禁じられていた。

「仕方あるまい。そなたは以前、数人の住民に顔が割れている。おまけに、その耳だ。ターバンで隠しているとはいえ、

やおら歩き回るのは危険だ」

さらりと言うと、また机の上に視線を戻すシンディ。

「ちっ・・・」

要するに、彼は退屈しているのである。神殿の中においても、大臣や使用人にその正体を明かすわけにはいかない。

最低限の行動以外はシンディの執務室か自室に籠もっているしかないので、彼にとっては大層な苦痛であった。

「・・・よし」

メカレへの手紙を書き終えたシンディは、すぐに側近を呼んでそれを手渡した。あとは返事を待つばかりである。

一つ深呼吸すると、まだソファに寝転がったままのシフを見てクスッと笑った。

「あんだよ?」

「いや、つくづく面白い奴だと思ってな」

「・・・・・・」

「私も、しばらくは休憩としよう」

小さなテーブルを挟んだ、向かい合わせのソファにシンディがゆったりと腰を掛けた。

シフも何となく、半身を起こしてきちんと座り直す。その素直な仕草に、シンディはまたも噴き出した。

「不思議だな。弟がいたら、そなたのような感じだろうか」

「はぁ?」

「危なっかしくて、何故か放っておけない」

「弟ねぇ・・・。俺は一人っ子だから、よく分かんねぇけど。そういや、あんたは親とかきょうだいは?」

「父・・・先代の王は、他界してずいぶん経つ。母と、二つ上の姉は街中で暮らしている。姉が生まれつき

身体が弱かったせいで、妹の私が政権を継ぐことになったのだ」

髪の毛を耳に掛ける何気ない仕草もまた、凛として威厳がある。

「この仕事に誇りはあるが、もう少し自由が欲しいと思う時もある。だから、そなたと出会うずっと前から、

グラディウスがエントルスに立ち寄る際には歌を聞かせてもらっていた」

シフも、グラディウスとエントルスで再会した際にそう聞いた記憶があった。

「国交が断たれた今は、旅人や吟遊詩人の語りや歌でしか、外の世界の文化に触れる機会がないからな」

各国がピリピリと緊張し、入国も簡単ではない現在。大陸を巡る吟遊詩人や宗教伝道者もずいぶん少なくなっている。

 

「彼が最初にここを訪ねて来たのは、十歳の時だ」

砂漠を歩き続け、痩せ細った身体にボロボロの服をまとった姿はまるで浮浪者。しかし、顔を上げれば神々しいばかりの

美しさを持った少年が神殿の扉を叩いたその日、十八歳ながらも既に政権に就いていたシンディは、思わず彼を

招き入れて食事を与えた。彼女の信仰するセントリア・ルシェ教の基本理念として【弱者に対する救済】があるが、

その行動はシンディ自身の生まれ持った性格の表れでもあった。

「グラディウスの奴、そんな昔から旅をしてたのか?」

「ああ、自分の出生の秘密を聞きに、私を訪ねて来たのだ。他の国では、国王への目通りは全く叶わなかったらしいな」

「出生の・・・秘密?」

素直な疑問が浮かんだシフの顔を見て、シンディの目が大きく開かれる。

「そなた、グラディウスから何も聞いていないのか」

「ああ。なんか突っ込んで聞くのもアレだし」

「そう、だったか・・・」

シンディは僅かに眉根を寄せた。

「彼からも、話すきっかけが無かったのかもしれぬな」

そのまま、目を閉じて何かを考えているようだ。

シフはしばらく、彼女の銀色の髪の毛が無造作に肩から流れる様子を見つめていた。

「・・・別に、無理に聞かせてもらわなくてもいいんだぜ」

「だが、グラディウスの過去にはラウォという国も深く関わっているのだ」

「えっ」

「少々、聞くのも辛い話になるだろうがな。彼に身寄りがなくなったのは七歳の時だ・・・」

 

この先シンディが語る内容は、今では彼女を含め、各国の王や要人しか知らない、隠された歴史である。

戦争の中で『報告書』や『記録』という無機質な形でラウォから流出した、血塗られた真実。その残酷さは、

戦後にも余計な問題を起こしかねないと判断され、国民への公表が厳重に禁じられたという。

 

「あいつって、ああいう・・・魔導術を使える特殊な一族の生き残りなんだろ?」

「ああ。大昔はそこそこ規模の大きい一族だったが、年月と共に数は減り、やはりその力も普通の人間には

理解出来ないものだ。自分たちの存在を隠して、ひっそりと暮らしていたと聞く」

そこまで言うと、シンディは話をいったん中断した。

「少し、待っていろ」

早足で執務室を出て行った。

「グラディウスの過去・・・か」

ぽつりと呟いてみる。いつも隣で笑っている仲間の過去を知ってしまうのは、何故か少し怖い。ラウォとどんな

関係があるのか、自分が知っても良いのだろうか。

まして、彼自身が語らない話を、第三者の口から・・・。

 

「待たせたな」

シンディの手には、いつかのように紅茶で満たされたティーカップが二つ。

「このハーブは、私が育てたものだ」

独特の香りがシフの鼻をくすぐる。

「続きを聞くか?」

「・・・ああ」

シフの返事を受け、シンディは再び昔語りをする。

「今から二十年前、魔導士一族の女性が懐妊する。その腹の子が、グラディウスというわけだ」

「え・・・あいつは十七だろ? 計算が合わねぇ」

「ああ、もっともな疑問だが、そのまま聞いて欲しい。当時、彼ら一族はマイヤの国の山奥に小さな集落を作り、

人目を忍んで生活していたそうだ」

 

絵本などでは『魔法使い』と呼ばれ、子供たちの憧れの対象であったりもする魔導士。しかし現実では、その力が

露見すると奇異の目で見られ、迫害され、何かあれば犯人だと真っ先に疑われるなどの差別を受けて来たという。

自分とは異質の力を持つ存在に対する、人間の醜い一面。

ついには彼らの能力を戦いに利用しようとする者も現れ始め、それを拒む魔導士たちは、よりいっそう一般人を

避けるようになってしまったのである。

 

「何もなければ、彼らはひっそりと暮らし続けてゆけるはずだった。しかし、そこへ始まったのが大陸戦争だ。

マイヤを真っ先に侵攻したラウォ軍は、彼ら一族を一人残らず捕虜にした。いくら魔導術が使えるとはいえ、

何万という軍の前では無力に等しかったようだ」

シフは、マイヤへの侵攻という歴史的事実は知っていても、そこに魔導士の一族が居たことも、彼らがラウォに

捕らえられていたことも初耳であった。

「・・・ここからは、公には隠蔽された情報の中でも、機密中の機密とされた真実だ」

彼ら魔導士の一族の、特に男たちはラウォへの力の提供を拒んだために、様々な責め苦を受けながら殺された。

女子供は研究材料として生かされた者も多少居たが、人体実験もことごとく失敗し、人数も徐々に減っていった。

「・・・しかし、かの女性の腹の子が何をしても出て来なかったらしい。その期間、二年半にも及んだそうだ」

「それって、母親が力を使って子供を守ってたのかな」

「おそらく、な。どんなに彼女を拷問にかけようと、薬を飲ませようと、彼女も腹の子も生きていたそうだ」

 

拷問という単語には、シフも覚えが無いわけではない。

国や軍を脱けようと目論んだラウォ人は、捕まって囚人の立場になると無慈悲の拷問を受けるのは避けられなかった。

シフ自身は拷問の執行者ではなかったので手を下したことは無いが、そのあまりの残虐さは見ているだけで

吐き気を催すほどであった。囚人の殆どが耐えきれずに自死したり、中には気が触れてしまう者も居た。

もし自分がその立場になれば、間違いなく死んだ方がマシだと思うほどの拷問を受け続けていたグラディウスの

母親を思うと、シフの身は自然と震える。

 

「それから更に一年後、戦争が終結する。ついには魔導士の一族の生き残りはその女性だけとなっていた。

もちろん、胎内には子供を宿したまま・・・。あまりに奇妙なその様子に、ラウォは彼女を処刑することにした。

そして執行人が牢に入ったその瞬間、彼女は子供を産み落として力尽きたという。実に、懐妊から三年後のことだ。

処刑の槍にかかることなく、死んでしまったという」

 

それから先の出来事は不可解な奇跡、と言うべきか。

その執行人は産まれ落ちた赤子を殺さなかった。むろん、殺すようには命じられていたのだが、出来なかった。

その理由まではシンディにも推測しかねるが、母親の遺体と共に、他の奴隷たちの遺体の中から、生後間もない

赤子のものを代わりに証拠として提出し、ちょうど国を訪れていた武器商人に、産まれた赤子を託したのである。

しかし、すぐに遺体が例の腹の子ではない事が発覚した。その執行人はすぐさま拷問にかけられ、真実を自白して

息絶えた。ラウォ側は赤子を探そうとしたが、何しろ誰も赤子本人の姿を見ていない。商人の行方すらも分からず、

とうとう捕まらなかったのである。

 

「その後、商人の荷物に紛れてラウォから出た赤ん坊は、マイヤの孤児院に入れられてグラディウスという名を

与えられたそうだ。しかし不幸は続くもので、その孤児院は七年後に財政難で潰れてしまう。それから、彼は

孤児院の者から譲り受けた竪琴だけを抱えて、大陸を放浪し始めたそうだ」

「そんな・・・真実を、たった十歳のあいつは・・・」

「私とて、最初は真実を話すつもりは無かった。しかし折れないグラディウスに根負けして、全てを伝えた。

彼は泣きもせず、かといって怒りもせず聞き終えると、心の整理がついたと礼を言ってきたのだ」

自分よりうんと幼いくせに、

『話して下さったあなた様こそ、お辛かったでしょう』

そう言って微笑んで見せた彼に、シンディの方が涙を流した記憶は、あまりにも鮮明だ。

 

「このような経緯で、グラディウスは魔導士の生き残りとなったのだ。これまでの彼の人生に、安息というものは

無かったのかも知れないな」

「・・・・・・」

「シフ?」

俯いたまま言葉をよこさないシフを、シンディは覗き込む。

「そなた・・・」

「っ・・・」

シフは、泣いていた。強く強く噛み締められた唇の代わりに、震える拳が想いを語っているような気がして。

シンディは、シフの硬くてクセのある髪をそっと撫でた。

「気が済むまで、泣け」

普段よりも優しさの含まれたシンディの声。

陽も傾き、窓からはオレンジ色の光が射し込んでいる。

シフはぐちゃぐちゃの思考を抱えたまま、ただ感情に任せて涙を流し続けていた。

 

            ☆

 

その日、グラディウスとカッツが神殿へ戻ってきたのは日没後だった。

買い込んだ備蓄品を抱え、疲れた表情で部屋に入ってくる。

「いやぁ、街中はすごい混みようだった」

エントルスの市場は、普段からとても活気がある。あまりそういう所に縁のないカッツは、一回りするだけでも

骨が折れた。

「シフさん、退屈していたでしょう?」

「いや・・・」

自分に向けてふわりと笑ったグラディウスから、あからさまに視線を外してしまったシフ。

「どうかしましたか?」

シフが自分に対して、こんな態度をとるのは初めてである。

「二人とも、苦労であったな。早く夕食をとって来るといい。私とシフは先に済ませているから」

「ああ、有り難くそうさせてもらおう。グラディウス殿、明日も早いからさっそく行こう」

「ええ・・・」

カッツに促されるまま、仕方なくグラディウスも部屋を後にする。

「わり、俺もちょっと外すわ」

シフも部屋を出て行った。

「やれやれ・・・」

一人残ったシンディは、天井を見上げて息を吐いた。

 

見事な満月が天空に浮かんでいる。

シフは、神殿の中庭にある噴水の縁に腰掛けていた。静かに噴き上げる水が美しく月光を反射し続ける様子を、

ぼんやりと見つめていた。

(何やってんだ・・・俺)

シンとした空気の中で少々の肌寒さを感じはするが、どうにも部屋に戻る気になれない。

(あいつを避けたって、どうにかなるもんじゃねぇのにな)

ごろっと身体を横たえた。ひんやりとした石の温度が背中に伝わる。黄金の月を同じ色の瞳に映して、まとまらない

気持ちの断片をかき集めようとする。

その時、視界の端にほっそりとした人影が入り込んだ。

「誰だッ!」

「私です、シフさん」

「お前・・・何でここに」

ゆっくりと近付いてきたグラディウスは、上半身を起こしたシフのすぐ隣に座った。

「ずっと部屋に戻って来ないから、探しましたよ」

「・・・・・・」

何かを言いたそうで言えない、というシフの様子に、グラディウスは微笑を浮かべる。

「シンディ様に、私の生い立ちを聞かれたそうですね?」

ズバリと核心をついてきた。

「・・・ああ」

「すみません。隠していたいというわけではなかったのです。ただ、あなたは優しいから・・・話せば、こうやって

ひどく気に病むだろうと思っていたんです」

グラディウスの口調は穏やかである。

「・・・何でだ」

「え?」

「何で、お前はそうやって笑っていられるんだ!?」

突然、グラディウスの瞳を鋭く見据えるシフ。その表情は、まるで涙をこらえる子供のようである。

そしてその問いかけはまた、グラディウスの心にも大きく響いていた。

「笑わなければ、泣いてしまうでしょう? だから、私は笑って生きて来たのです。でも今は、シフさんやカッツさん、

シンディ様が傍に居てくれて・・・心から楽しくて、笑えるようになったんですよ」

「本当に、そう思ってるのか? ラウォという国が、お前たち一族に対してどんなことをしたか・・・。

俺は、そんな国の騎士隊長をやってたんだぞ! 戦いの中で、何人もの人間を殺してきた。何で、俺なんかと

一緒に居て笑えんだよ!?」

自分を映す瞳が、悲しい揺らぎを浮かべている。シフが己の過去を悔やみ、嫌悪する気持ちを必死に抑え込んでいるのが

痛いほどに伝わってくる。グラディウスは、そっとシフの肩に手を触れた。

「っ・・・!」

シフの身が、ビクッと硬直する。

「シフさん、どうかしていますよ。私の過去には、当時まだ産まれていないあなたには何の関係もありません。

大切なのは、過去より今、そして未来です」

しっかりと、目線を逸らさずにシフを諭す。

「過去は、学ぶべき思い出に過ぎません。いつまでもそこに囚われていては、前に進めませんよ。コウジャのお爺さんも

言っていたでしょう? 過去を乗り越えることの大切さを」

「・・・・・・」

「私は、自分からシフさんの旅に同行しました。以前、お話しましたよね。私が、あなたと出会うのは定められた

運命だったのだと」

エントルスの牢を出てグラディウスと再会した時、確かにグラディウスはそう言っていた。

「幼い頃に、ある方から古い歌と、予言をいただいたのです。いつか、大きなことを成す人間と出会う。

その出会いが、私の人生をも大きく変える、と言われました。いつまでも、その人を探し続けるつもりでした。

それこそ、数十年後かもしれないと覚悟していたので、こんなに早く出会えたことに驚いているんですよ」

 

紅い光が揺らぐ夢の後に、砂漠に倒れて気を失ったシフを見付けた。そして言葉を交わしてみて、強く心を

揺さぶられる気がして仕方なかった。共に旅をする中で聞いたシフの過去、旅立ちの決意。全てが予言の言葉と

歌の通りで、グラディウスは言い表し難いほどの興奮と衝撃を感じていたのである。

 

「しかし今では予言がどうというより・・・あなたが、あなたのような方だったからこそ、こうして一緒に居ます」

「俺のような・・・って?」

「親友でもあり、戦友でもあり・・・時には好敵手でもある。そんな関係になりたいと思えた人は、あなただけでしたから」

「なっ・・・」

そこは、真剣な表情で言ったグラディウス。対するシフは、予想もしていなかったその言葉に、遠慮なく赤面してしまった。

「私は、過去に対するラウォへの復讐などは考えてもいません。ただ、これから先に起こるかもしれない侵略だけは、

止めたいと思っています。私の家族や一族、孤児院の皆が眠るこの大地を、もう血で汚したくはないのです。だからこそ、

その目標を掲げているシフさんをお手伝いしたいのです」

「グラディウス・・・」

「分かっていただけましたか?」

「ごめん。俺、どうかしてた。大切なのは、これから・・・だよな」

「ええ。分かったら、もう二度と私にあんな態度はとらないで下さいね?」

「ああ、約束する」

「これからも、よろしくお願いします」

「ありがとな・・・グラディウス」

二人は、改めて握手を交わした。

 

            ☆

 

遠くに彼らの様子が見える窓辺に、二つの人影があった。

「シフ殿も、グラディウス殿も笑っている。うまく話もまとまったようだな」

カッツは、ほっと安堵の表情を浮かべる。

「ふふ。兄貴分というよりは、むしろ父親のようだぞ」

シンディは、そんなカッツに苦笑してみせる。

「彼らは、まだ若い。重すぎる過去を背負い、さらに重い目標に立ち向かおうと必死に足掻いている・・・。

時には見守り、時には支えてやるのも、自分たち年長者の役割だろう」

「そうだな。これから先、何があろうとシフは挫けるわけにはゆかぬ。彼が成そうとしていることは、半端な

気持ちではやり遂げられないほどのものだから・・・」

だが、とシンディは続ける。

「私はシフを、そしてシフと共にいるグラディウスや、そなたを信じている」

その言葉には一片の迷いや不安もない、強い想いが溢れていた。

「あはは、シンディ殿こそ、まるで母親のようだぞ」

「・・・うるさい」

 

過去ではなく、未来に思いを馳せる四人を、柔らかな光をたたえた黄金の月が静かに見守っていた。



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